船外機ドライブシャフト固着トラブルについて②(実例編:ヤマハF100A)

ヨコタオート&マリンです。

 今回は昨年末の記事に引き続き船外機のドライブシャフト固着トラブルについてです。

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ドライブシャフトの固着トラブルについては前回の記事(原因と症例)も合わせてご参照下さい。

 (前回の記事へのリンクです)

 

 

 船外機ドライブシャフト固着トラブルについて

ヤマハF100A

※実例としてヤマハF100Aをあげていますが決してこの症例はこのモデルが発生しやすい等ではなくドライブシャフトブッシングが装着された船外機ではメーカー&モデルを問わず使用状況、経年劣化、定期点検&メンテナンスの有無などで何れも起こり得る症例です。

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症例を紹介する船外機のモデルは「ヤマハ:F100AETX」

1998年に発売開始されたモデルでヤマハの4ストローク船外機では1990年代に開発された初期の部類にはいるモデルで今回作業した船外機も2000年モデルでした。

ご依頼の内容は「エンジンの始動が出来ない」との事で他船で曳航して当方へお持込み頂きました。尚、今回初めてご依頼を頂いたお客様で過去の整備履歴が分かりませんでしたが、お客様自身も中古艇にて購入されており過去の整備履歴等は不明との事でした。

 

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エンジンが始動できない原因としてはお客様からの聞き取りにて概ね判明していましたが、エンジンキーを回してスターターモーターは起動しピニオンギヤは跳ね上がりますがフライホイールは回らずエンジンは始動できない状態となっていました。

 

 

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この状態をイメージしやすくする為にイラストを用意しました。

フライホイールが回らない原因はクランクシャフト及びドライブシャフトが回らないからであり、更にその原因はドライブシャフトブッシングの位置でドライブシャフトが固着しており動かせない事に起因しています。

この状態を確認して改善するまでの作業を以下に書いていきます。

 

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イラストからも分かる通り、該当部位の確認と作業を進める為にまずはギヤケースを取り外します。ギヤケースについてはモデルにもよりますが通常3~7本程のボルト(またはナット)にて固定されており、その他シフトロッド、ウォーターポンプのパイプ等が連結していますが、これらを緩めたり取り外すと固着がなければ自重で外れる方向にスムーズに抜けますが・・・

今回の様に固着しているとボルト類を緩めてもギヤケースは外れません。

固着の程度にもよりますが、今回は非常に固着が酷く上の写真の様にスリングベルトを掛けて・・・

 

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手動のチェーンブロック(1t)にて引っ張りギヤケースを抜く作業を行いました。

※電動ウインチなどを使用したこともありましたが手動の方が抜けてくる感触が分かりやすく安全に思います

 

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このとき船体も鉄骨にスリングベルトを掛けて固定しておかないと船体ごと引っ張られて動いてしまう位の固着でした。

 

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写真の状態まで作業時間は準備等も含めて2時間ぐらいです。これは固着の程度にもよるので30分ぐらいの場合もありますし、数時間かかる場合もあります。

※チェーンブロックで急激に引くと負荷がかかり他の箇所で部品が破損したりする事もありますので、潤滑剤を使ったり可能であればトーチで加熱したりしてゆっくりと引抜き作業は行います

 

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このモデルに関しては、ドライブシャフトブッシングエリアをクリアすると一旦シャフト経がなりますが、クランクシャフト側で再びシャフト経が太くなりますので抜き取る作業に時間がかかりました。

 

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ギヤケースを取り外す事が出来ました。作業時間はトータルで3時間程でした。これは同様の作業でもかなり時間がかかった方です。

 

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次に確認のためにウォーターパイプに直接水道ホースを接続して冷却水を供給しエンジン始動点検を実施。

 

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固着していたドライブシャフトがなくなった事で問題なくスターターモーターは回りエンジンの始動が出来ましたので原因箇所については間違いないことが分かりました。

 

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ギヤケースを引き抜く際に非常に劣化したドライブシャフトブッシングはボロボロと壊れながら落ちてくる状態でした。

 

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残存していたドライブシャフトブッシングの破片を取り除いた状態です。ドライブシャフトブッシングが収まる部分ですが、結晶化した海水の塩分の粉や船外機の母材であるアルミがボロボロに腐食して多層にわたり積層した状態でした。

 

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ある程度まで清掃を進めていきますが、今回は取付け部位のアルミの腐蝕も激しく再度部品を設置できる状態には回復できないと判断して・・・

※写真は取り忘れですが、この後の作業で積層した白い部分(塩分等)は除去しています

 

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「ドライブシャフトブッシングなし」でギヤケースの組付けを行いました。

 

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その後、海上試運転にて各動作チェックを行い問題がないことを確認しました。

※実際には他にもオイル交換始め定期点検メンテナンスを依頼されていましたので各種作業や消耗部品交換などを海上試運転までに行っています

 

 

 

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ドライブシャフトブッシングですが、長尺部品であるドライブシャフトのおおよそ中央付近で軸として支える役目があり

・ドライブシャフト自体のブレを軽減する

・エンジンからの振動を軽減する

これらの作用でエンジン側、ギヤケース側のベアリング等への負担を軽減。

またウォーターポンプインペラはドライブシャフトの回転を利用して駆動しており、ウォーターポンプ上部からはドライブシャフトとブッシングの摩擦軽減や冷却の為に汲み上げた海水の一部をこの部位に吹きかける様になっています。

 

よって「ドライブシャフトブッシングなし」で運用することで・・・

多少はブレや振動が大きくなるので超長期的に見れば他所への負荷は増えます。

またウォーターポンプからの海水や塩気がドライブシャフトを通じて上方向へ抜けやすくなるので、クランクシャフト下部やドライブシャフト上部のオイルシールの劣化にも影響が多少出てくる事が推測されます。

 

しかし、これらは船外機のシャフト長さ(S/L/XL)や、船体の形状や喫水位置でも影響が変わってきますし、ドライブシャフトブッシングがそもそも設置されていないモデルの存在や、過去の事例からも直ぐに故障や不具合につながるケースは発生しておらず今回の艇体と船外機(F100AETX)の組み合わせでは早急に問題は発生しないと思われます。

※これらは当方の個人的な判断と責任で行っており、決して「ドライブシャフトブッシングなし」での運用を推奨している訳ではありません。ただしこのドライブシャフトブッシングが収まる「中間ハウジング」を部品交換する為には非常にコストがかかりますので船外機の年式や使用時間等と船体のマッチングなども考慮して判断をしています※

 

 

ちなみに同型のモデルでも

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清掃したあとが、この程度の状態であれば・・・

 

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新しい部品を組付けて

 

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元通りに復旧して使用ができます。

 

 

以上、実際の症例を作業工程と合わせて紹介させて頂きました。

ドライブシャフトブッシングは、上記したようにギヤケースを取り外さないと目視点検が出来ない箇所にありますので点検および実作業は整備業者に任せるケースが大半になるかと思いますが・・・・・

今回の様にお客様が島外から直接買って来られる中古艇や、オークションなどで購入した船外機を持ち込まれた際に見ますとあまり点検や交換を行われた形跡がない事が多いです。

これは先の記事でも書きましたが、消耗部品としてマニュアル等でもリストアップされているケースが少ないので整備業者でも認識が低いのが要因かと推測されます。

何れにしましても・・・

1.エンジンを始動すると「キーキーキー」と異音がするケース

・エンジンは始動できるが船外機下部から「キーキーキー」と異音がする事がある

・また低速運転時にエンストする事がある

・症状がでない日もある

 

2.スターターモーターの動きが重たいケース

・エンジン始動時にスターターモーターの動きが鈍く重たい回り方をする

・スターターモーターが熱くなり、煙がでた

・バッテリーの充電不足かとバッテリーを充電(または交換)してみたが変わらない

※この場合はスターターモーター自体の不具合の他、スターターリレー、バッテリーケーブル等が原因の可能性もあります。

 

3.スターターモーターが回らない=エンジン始動が出来ないケース

・スターターリレーは起動して、スターターモーターのピニオンギヤも飛び出すがフライホイールが動かずエンジンが始動出来ない

・バッテリーの充電不足かとバッテリーを充電(または交換)してみたが変わらない

・スターターモーターが熱くなり、煙がでた

・バッテリーケーブルが焼けた

※この場合はスターターモーター自体の不具合の他、スターターリレー、バッテリーケーブル等が原因の可能性もあります。

 

こういった症状がある場合は、ドライブシャフトブッシングの劣化による固着が原因の場合もありますのでご注意頂くと共に、早めの定期点検&メンテナンスの実施を推奨させて頂きます。

 

以上、今回はここまでとなります。

最後まで読んで頂きましてありがとうございました。