過冷却(オーバークール)について
ヨコタオート&マリンです。
非常に久しぶりの投稿になりました。
ギヤケースメンテナンスの続きや、その他にも色々と更新したい内容もあったのですが・・・・・
ぼちぼちと出来る範囲で更新していきたいと思いますのでお付き合い下さい。
さて今回ですが過冷却(オーバークール)についてです。年中ある症例ですが、なんとなく寒くなり気温とともに水温が下がってくると依頼が増える様な気がします。
要するにエンジンが冷えすぎると言うことです。
現在の船外機は2ストローク及び4ストロークのガソリン内燃機関ですが、エンジンのシリンダー内で燃料を燃やす(爆発させる)事で動力を作りますので当然ですがその際には熱が発生します。
しかし過度な熱が発生したままにしますと金属部品の焼付き(オーバーヒート)が起こりますので、エンジンを冷却をしなくてはいけません。
しかし実際には想定された熱がエンジン内で発生してシリンダー内壁やピストンが膨張する事で適正な隙間となり正常な圧縮による動力が得られるように設計されていますので、エンジンは冷えすぎも良くありません。
車でも暖機運転を推奨されますが、これは適度な熱を発生させてエンジンオイルを温めたり上記のように金属部品の膨張を促して適正なエンジンの状態に持っていくための準備運動の様なものです。これは船外機のエンジンでも同様です。
※分かりやすく要約していますので多少の説明不足はご了承ください※
さて、その船外機ですがエンジンの冷却構造は一部を除きウォーターポンプインペラーによる水冷になっています。そしてウォーターポンプインペラーで汲み上げた海水(または湖水など)を直接エンジンの冷却水経路へ循環させるので非常に冷却の効率が高いです。エンジンを冷やす冷却水は周囲にたくさんありますので次々と水を汲み上げ、エンジンを冷やし温まった水は排気ガスと一緒に排出しますので、(特に低回転時など)そのままではエンジンは冷え過ぎた状態となってしまいます。
このエンジンが冷えすぎた状態ですと、上記しましたが金属部品の膨張が不十分でピストンとシリンダー内壁の隙間が埋まらず正常な圧縮が得られなかったり(出力不足)、その隙間からガソリン混合気がシリンダー側へ抜ける事で起こるオイルダリューション(エンジンオイル希釈による粘度低下や劣化など)が発生したり、特に低速(アイドリング)時の運転が不安定になったりといった症状が発生しやすくなります。
そこでエンジンの冷却水経路にはサーモスタットと言う部品が配置されています。
(船外機のサーモスタット:左=弁が閉じた状態 右:弁が開いた状態)
エンジン以外にも電化製品などサーモスタットが使われている製品は多数ありますが、船外機のサーモスタットはワックスペレット型で通常はスプリングの張力で閉じられている止水弁が、規定の温度になるとワックスが膨張してスプリング押し上げる事で止水弁を開く構造になっています。
サーモスタット作動までの動きですが・・・・
エンジン始動に伴いクランクシャフトに連結したドライブシャフトが回転してドライブシャフトに設置されたウォーターポンプインペラーにより汲み上げられた冷却水はエンジンシリンダー内の冷却水経路を循環してエンジンを冷やします。
エンジン始動直後からエンジンが温まるまではサーモスタットの止水弁は閉じた状態です。この時の冷却水はエンジン内の冷却水経路を順番に冷やしながら循環していき最終的に排気ガスと混合されて排出されます。排水まで出口は遠くその間に冷却水の温度も上がりますので徐々にエンジンの温度も徐々に上がっていきます。
その後、中~高回転域の使用に伴いエンジン温度が上昇しますが追随して循環中の冷却水の温度もどんどん上がってきます。そして冷却水温度が規定温度に達するとサーモスタットの止水弁が開き始めます。
イメージ的には冷却水の経路内に排水用の放水路(バイパス)が開く様な状態で、エンジン内を循環する冷却水の抜けが良くなるので冷たく新しい冷却水も入ってきやすい状態になります。
冷却水はエンジン回転の上昇に伴いドライブシャフトに設置されたウォーターポンプインペラーの働きで汲み上げ量も増えますので新しい冷却水がどんどん供給される訳ですが、サーモスタットの止水弁(放水路)が開き一部の排水がそちらから抜ける事で冷却水の循環効率が良くなりより冷却の効果が高くなると言うことです。
(幹線道路の交通渋滞をバイパス道路で緩和するような感じ??)
ここまでの大まかなサーモスタットの働きですが・・・
・低回転域ではエンジンが冷えすぎるのでサーモスタットの止水弁を閉じて冷却水の循環を抑制してエンジンの温度が下がり過ぎないようにコントロールを行います。
・中~高回転域でエンジンが高温になればサーモスタットの止水弁は開き冷却水は素早く循環してエンジンを冷やす事でオーバーヒートを予防します。
※分かりやすく要約していますので多少の説明不足はご了承ください※
さてさて、前置きが長くなりましたが以上を踏まえた本日の作業ですが・・・
スズキ4ストローク船外機「DF30T」キャブレター仕様の3気筒エンジンです。
幾つかご依頼の内容はあったのですが、当初の症状は低速時にエンジンが停止し易いとの事でした。オーナーさん自身でキャブレターのスロットル開度を調整して回転数を上げて対応しているとのことです。
とりあえず、破損のあった部品の交換をサクサクと済ませてエンジンが止まりやすいとの症状を検証しました。
燃料ラインの接続点検や燃料漏れ、スパークプラグの点検などを済ませてましたが異常は無かったので、その他を見ていくと・・・・・
サーモスタットカバー周りの塩分結晶付着も気になっていたので・・・
サーモスタットの点検も兼ねて
サーモスタットカバーを外しました
するとサーモスタットがオープンスタック(弁が開いたままで固着)していました
上記した様に常温~規定温度までは弁が閉じていなければなりませんが、止水弁が開放状態ですので冷却水の循環が過多気味となりエンジンが過冷却(オーバークール)になっていた様子です。
特にキャブレター仕様では吸入する外気温の下がる冬の時期に、これが重なると低速運転が不安定になりやすいですね。
通常サーモスタットの可否はポットに入れて水からお湯を沸かす過程で規定温度に達した時に止水弁が規定値まで開くかを測定するのですが・・・・・
今回の様に止水弁が固着したもの(右)は、付着した塩分の清掃で動く場合もありますが使用年数も考慮した上で消耗部品と割り切り新品(左)交換する対応が多いです。
今回はたまたま開いた状態で固着しており過冷却(オーバークール)の症状なので低速運転の不安定で済みましたが、逆に止水弁が閉じた状態での固着ならオーバーヒートになっていた可能性もあります。
サーモスタットはエンジンの適正な運転を行う上で非常に重要な保守部品ですので、ある程度消耗品と割り切り定期的な点検と交換が必要な箇所と言えると思います。
サーモスタット設置部分は冷却水(海水)が滞留し易い場所なので結晶化した塩分(カルシウム)が堆積しています。点検時には必ずこれらの清掃除去を行います。
新しいサーモスタットを設置(青いのは耐水グリスです)
サーモスタットカバー取付に関してガスケットやパッキンがある場合には、これも毎回必ず交換します。
また今回のモデルの様にサーモスタットカバーが冷却水を逃がすバイパスホースを取り付ける為のニップル形状になっている場合は、ホースとカバーの間に塩分が堆積して合い面が腐食する場合があります(上の部品、下は新品)。
今回は若干ですが水漏れの形跡もあったので合わせて交換しています。
他のモデルですが、酷い場合にはここまで腐蝕する事もありますのでサーモスタットだけでなくサーモスタットカバーも定期的な点検が重要ですね。
(メーカーやモデルによってカバーの形状や取り付け位置は異なります)
バイパスホースの合い面も傷んでいましたので、一緒に交換しています。このモデルはシリンダーヘッドの上面に接続があるのでここから水漏れがあるとエンジンが海水をかぶる事になりますからね。
このモデルはボトムカバーが左右分割で外れるタイプなので整備がやりやすいです。
バイパスホースはシリンダーヘッド上面からエンジン下部へつながっています。
作業後はエンジンの始動点検を実施
アイドリング回転の調整を行い完了しています。
最後に、冬場のエンジン(特に低速)運転の不調が全て今回のサーモスタットによるものとは当然限りません。件数的には燃料系統やスパークプラグの場合が多いと思います。
このブログを読まれる様なマニアックな方が、長く船外機をご使用頂く上で知識として今回の症状も知っておいて頂いても良いかと思う投稿でした。
(作業内容的には業者の仕事になると思いますので、参考程度にお願いしたします)