膨張式ライフジャケットについて(各タイプの特徴など)
ヨコタオート&マリンです。
今年の2月から小型船舶に乗船する際にはライフジャケットの着用が義務化となりました。
その影響もありライフジャケットについての問い合わせが昨年夏ぐらいから多かった様に思います。
店頭では数種類のライフジャケットをおいていますので問い合わせやご購入頂く際には現物を見てもらいながら特徴などを説明しておりますが、今回はそのあたりについて書いてみたいと思います。
※↓義務化についての詳細は以前の投稿を参照下さい↓※
まず小型船舶の場合ですが船舶検査証書に記載された定員分のライフジャケットを揃えておかないと船舶検査に通りませんが定員いっぱいに搭乗するケースは稀かと思いますので、写真のように自身やゲストで着用する物を含めて数着をガス膨張式で、その他を固形型のもので揃えるケースが一般的になってきています。
(ガス膨張式は高価で、固形型は安価なので数を揃えやすいです)
そして今回の法改正では、小型船舶に乗船する全員がライフジャケットの着用をしなければならなくなりましたが自身で着用したりゲストさんに貸して着てもらう際にガス膨張式のライフジャケットについては少なくとも以下の特徴を理解しておいてもらいたいと思います。
1.手動膨張式について
※サンプル的に上記画像を使用していますがウエストタイプでも手動膨張式と自動膨張式があります※
手動膨張式はその名のとおり、装着している人が手動で操作をしなければ膨張しません
手動レバー(紐)はこの様な装置につながっており、強く引くことで装置内のニードル(針)がガスボンベに穴を空けてガスが噴出して気室に流入する事で膨らみます。
よって、落水時にはこの「手動レバー」を引くということを分かっていないと意味がありません。
・泳げない、泳ぎが苦手など落ち着いて操作が出来ない場合
・落水時に腕を怪我した、気を失ったなど操作が出来ない場合
手動膨張式は自動膨張式に比べて価格が安いものが多いのですが、これらが想定される環境では手動膨張式はお薦めが出来ないタイプと言えます。
2.自動膨張式(水感知式など)について
※サンプル的に上記画像を使用していますがウエストタイプでも手動膨張式と自動膨張式があります※
外観上はよほど詳しい方でないと手動膨張式か自動膨張式かは分かりません。
自動膨張式の装置には水を感知する機構が備わっています。
それが上の写真内の「水感知カートリッジ」部分となります。
「水感知カートリッジ」部分が落水などで水中に入ると内部の感知素子(メーカーによりますが水に溶ける錠剤の様なもの)が溶ける事で抑えられていたバネが伸びてニードル(針)を押しガスボンベに穴を空けます。そしてガスが噴出して気室に充填されて膨らみ浮力が発生する仕組みです。
しかしこの自動膨張のシステムはあくまでも膨張させる動作の補助という位置づけです。基本的には手動膨張式と同じく手動レバー(紐)を引く動作が主となります。
※カートリッジに不具合があったりした場合に自動では動作しない事も可能性としてはありますので、手動レバー(紐)操作を主と考えてください※
・泳げない、泳ぎが苦手など落ち着いて操作が出来ない場合
・落水時に腕を怪我した、気を失ったなど操作が出来ない場合
これらを想定した場合に自動膨張のシステムは有効と言えますが、正常な動作をさせる為には定期的な点検とカートリッジ&ボンベの交換などが必要です。
3.肩掛け(ベスト)タイプの膨張後の形状について
写真の様に膨張時には後頭部から両胸に向けて気室が膨らみ浮力が発生します。
基本的には顔が前面を向き、体がやや斜めに浮きますので口や鼻が水面より上となり呼吸の確保が出来ます。
こちらのタイプで自動膨張式の動作イメージ動画です。
動画を見て頂いても分かる様に膨らんだ後も人体の浮き姿勢が比較的安定している事が分かるかと思います。
(個人的な総評)
この肩掛け(ベスト)ライプは昔からあるタイプですので製品が重たい、ボンベなどの装置側に下がるなど昔の商品のイメージがある方も居られますが最近のモデルは軽量で、立体縫製となったモデルはフィット感も高くベルトを体に合わせて調整してしまえば驚くほど重さを感じません。
また一部のメーカーではショート丈と言いますか気室が短くなっており、ジギングなどロッド操作が頻繁な釣りでも邪魔になりにくいタイプも存在します。
着用参考動画(ベルトの調整をしていますが、ここが結構重要です)
何れにしましても落水後の姿勢保持や安定性を考慮しますと、この肩掛け(ベスト)タイプで自動膨張システム付きの物を個人的には最もお薦めしています。
4.ウエストベルトタイプの膨張後の形状について
写真の様にU字型やJ型に気室が膨張するタイプが多いです。
気室の膨張後は、体の前側でバックルを固定して形状を確保する必要があるモデルも存在します。※体に巻き付くような形状で膨らむモデルもあります※
こちらのタイプで自動膨張式の動作イメージ動画です。
動画をみて頂くと分かりますが、気室が膨張してからもバランスをとるのが難しい場面もあるかと思います(波がある時など)。またバックルを止める動作なども発生しますので、これらの状況を想定しておく必要があります。
着用参考動画
(ベルトタイプは製品の上下が分かり難いモデルもあります。着用時には必ず上下を確認! ここが結構重要です)
(個人的な総評)
近年では装着のし易さや見た目、釣りなどの動作の妨げになり難いなどの理由で人気があるタイプです。しかし実際にはどの様な形状で膨らみ、どうすれば良いのか知らずに使用されている方も多いかと思います。
それなりの動作やバランスをとる必要がありますので、落水時に怪我をした場合や気を失った場合などを想定するとややお薦めはし難いです。
店頭ではこれらを説明または膨張した場合のイラストなどを添付して了解を得てから販売する様にしています。
5.ウエストポーチタイプの膨張後の形状について
写真の様に本体からコードでつながった浮力体部分が出てくるタイプが多いです。よって、気室が膨らんだ後は人力でそれを掴むまたは体に固定する動作が必要となります。
このタイプは製品としては少ない部類となりますが、普段装着していても最も動きやすい形状である為、好んで使用されている方も居られます。
しかしウエストベルトタイプと同様に落水時にある程度の対応をしないといけませんので、十分にそれらを理解した上でご使用頂きたいと思います。
6.定期点検とボンベ交換などのメンテナンスについて
本体の生地を必ず点検してください
この膨張式のライフジャケットですが世に出始めて20年以上経ちますので、古いものでは10年、15年といった使用歴のものを見ることがあります。
ボンベやカートリッジといった交換部品に目が行きますが、まずは本体特に気室の生地に破れや傷みがないか確認をして下さい。小さな穴や破れがあった場合、ガスが抜けてしまい浮力が失われます。特に古いモデルは首回りが擦れて破れている事が多いです。
内部には気室を膨らませる補助としてパイプが付属していますので、そこから空気を入れて膨らませて萎まずに24時間程度保てれば大丈夫かと思います。
※パイプには逆止弁がありますので空気やガスを抜く時には弁を押して空気を排出できます(キャップの凸部などで押せるモデルが多いです)※
ボンベは定期的に点検してしっかりと取り付けを
外観では分かりにくいですが外すと接地面に装置の誤作動などで小さな穴が空いているのを見かける事があります。多くの場合は装置の誤作動とボンベの取り付けが緩んでおりネジ部からガスが漏れて気室が膨らまないのでボンベの不具合に気付かないケースです。
ボンベを点検したり、交換した場合には締め付けた後にペイントマーカーなどで印をつけて緩みがチェックできる様にすると良いかと思います。
また交換した際にはボンベに日付を書き、次回点検などの目安にすると便利です。
カートリッジも定期点検&交換、そしてしっかりと取り付けを
カートリッジも外観では良・不良の判断が難しいものがあります。特にボンベと異なりメーカーやモデルによって様々な形状がありますのでメーカーのHPや取説などをみて判断をされて下さい。
また取付けの際にはしっかりと取付けをしないと動作不良、誤作動の原因となりますのでご注意ください。
点検窓が付いた最新のモデルがあります
最近のモデルではボンベとカートリッジの状態を色で判断できる点検窓がついたモデルが販売されています。
勿論これらのモデルも上記した様な定期点検は必要ですが、日常的にボンベやカートリッジを取り外す事無く状態を把握出来ますので、非常に安全性が高いと言えます。今後は徐々にこれらの機能が付いたモデルが増えてくると予測されます。
以上、長くなりましたが私見も交えて膨張式ライフジャケットの特徴を説明させて頂きました。
今回の法改正ではライフジャケット着用の義務化とともに着用するライフジャケットには国交省認可(桜マーク)品が求められており購入などの際にはそれなりのコストが発生するのですが、自身や同船者の命を守る器具となりますので一定の品質が担保されたものが必要であると思っています。
そして当方は販売する側の立場ですので、今回の記事が皆様のライフジャケット購入の際に多少の目安になればと思い書かせて頂きました。
次回は機会があれば各メーカーのモデル紹介、私のお薦めモデルなどについて書いてみたいと思います。
※記事作成にあたり救命胴衣製造メーカー各社HPより写真や動画を使用させて頂きました。以下、弊店でも取扱いのある主なメーカーのHPとなりますので参考にされて下さい(順不同)。