GPSプロッターの現在とこれから

ヨコタオート&マリンです。

(※今回の記事内容について・・・・店頭で機器を販売する為に最低限の知識を持っているつもりですが特殊な専門知識については多少誤記があるかもしれません。ざっくりと全体の内容でご理解頂けると幸いです)

 

今回はGPSプロッターの事について書いてみたいと思います。

きっかけとしては先週GPSプロッター魚探の商談をしていたのですが、その際にお客様からGPSアンテナの違いについて質問を受けましたのでその辺りの事をお題にしています。

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 まず商談の際に各社のカタログ等を見て頂きながら話を進めますが、概ね一つのモデルに対して複数の価格が存在します。

一つは魚探部の出力による価格差。レジャー仕様では600Wか1kWなどの場合が多いです。

次に価格差が発生するのが今回の話題となるGPSアンテナによる価格差です。

一例として「HONDEX」のカタログの1ページを参照してみますと

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ページの中段に価格記載がありますが、先に述べた出力による価格の違いが上段/下段にありまして更に左/中/右は以下のアンテナの違いによる価格差となります。

 

1.GPSアンテナ内蔵仕様

その名のとおり機器本体内にGPSアンテナを内蔵した仕様です。内蔵型が出た当初は機器内にアンテナが入っている事に驚かれるお客様もいらっしゃいましたが、今や携帯電話にすらGPSアンテナは入る時代ですので、それ程驚く方もおられません。

余程金属に覆われた屋根などがなければキャビン内に本体を設置しても電波の受信は可能でありアンテナ設置の加工も必要ないので大半はこの仕様が選ばれます。

 

2.GPSアンテナ外付仕様

こちらもその名の通りですが機器本体とは独立したGPSアンテナが付属する仕様です。機器を設置する条件が悪い場合などアンテナをキャビンなどの屋外に設置して使用します。アンテナと本体は有線接続になります。

 

3.DGPSアンテナ外付仕様

ディファレンシャルGPS(通称DGPS)の外付アンテナが付属するタイプです。こちらもキャビンの屋外に独立してアンテナを設置するタイプですが詳しくは、この後に書いていきます。

 

☆ディファレンシャルGPS(通称DGPS)/ビーコン方式とは☆

この仕様は上の例で見ても分かるとおり同じ出力モデルでアンテナの仕様が違うことで¥10万前後の価格差が発生する大きなオプションと言えますが、このDGPSについて簡単に説明しますと・・・・・

アメリカが運用しているGPS(グローバル・ポジショニング・システム)は様々な機器で現在は使用されていますが、運用が開始された当初は測位誤差も大きく数十メートルから条件が悪いと約100メートルに及ぶ事もありました。これには様々な要因があったり、米軍が意図的にSAと呼ばれる雑音の様なものを発して他国や民間の使用では受信精度を意図的に下げる操作をしていた経緯もあります。

  

また通常GPSシステムは衛星からの測位電波を4機以上受信して位置計測を行いますが、より正確な測位を行うには8機以上の電波受信が必要です。しかし全世界をカバーするGPSシステムの周回衛星は20数機(※1)なので、安定して受信できる(上空が開けた)環境でも受信可能機数は6~10機とバラつきがある様です

(※1:基本構成は24機、入れ替えもあるので最低基準21~29機の間で運用されているそうです)

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この様な状況から当時もGPSプロッターは海上航行において支援的な役割りでありましたが上記の様な測位誤差が大きい状態ではやはり運用がしづらく・・・・・

1997年に海上保安庁が管理する基地局からGPS測位誤差を補正する為の情報をFM波で発信するシステムが運用開始されました。これがビーコン方式のディファレンシャルGPSというものです。

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GPS衛星からの電波は上空から地上(海上)へ到達するまでに様々な要因で誤差が生じます。これを予め緯度経度が確定している基地局が同じくGPS電波を受信してその誤差を計測。その計測された際の誤差情報をディファレンシャルデータとしてFM波でそれぞれの機器へ向けて発信しています。船舶のGPSプロッターは個々に受信したGPS測位の電波と、このディファレンシャルデータを統合してより正確な自船の位置をモニター上に表示する仕組みです。

このディファレンシャルデータ(FM波)を受信できるアンテナが従来のDGPS仕様アンテナとなります。

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現在、海上保安庁が運用させている全国のDGPS基地局(27箇所)の配置です。

隠岐の島付近ですと丹後と浜田の基地局からデータを受信している事になります。

 

話を戻しますが、その後2000年5月には上記の米軍によるSAは解除されてGPSのみによる測位でもかなり精度は向上しましたが、より正確な測位を行う上でビーコン方式のディファレンシャルGPS(通称DGPS)システムは有効な手段としてこれまで広く活用されてきました。

 

海上保安庁によるディファレンシャルデータ送信の停止とその後☆

しかし、海上保安庁の発表によるとこのディファレンシャルGPS(通称DGPS)の運用は平成31(2019)年3月1日で運用が停止されます(同じく基地局から発信されていた気象情報は平成28年9月30日に既に廃止されています)。

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その背景として・・・・・

1.SBAS(Satellite-Based Augmentation System)静止衛星型補強航法の運用

アメリカではWAAS、ヨーロッパではEGNOS、日本ではMSASと呼ばれる静止衛星型衛星航法補強システム=SBASの運用が日本では2007年9月から正式運用されています。

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これは従来の地上波FMビーコン方式とは異なり、高高度の静止衛星から位置補正の情報を受信して測位を向上するシステムです(これも基地局などありますが、そのあたりは割愛)。

なお調べる文献により数値は異なりますが・・・・・目安的に

GPSのみによる測位誤差は約10m

GPS+MSASによる測位誤差は約5m

程度の様です(状況により異なります)。

 

現行で販売されている各社のGPSプロッター魚探などは大半がこのSBAS対応になっており、ビーコン方式DGPSには及ばないもののレジャーボートなどの使用では概ね差し支えのない性能と言えます。

※文章中にMTSAT、MSAS、SBASなどの名称が出てきますが、ざっくり同義と思われて下さい※

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 (HONDEXカタログより:それぞれのアンテナ項のところにSBAS対応となっています)

 

 

2.準天頂衛星システムの2018年4月からの運用開始

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先日ニュース等でも紹介されていましたが、準天頂衛星みちびき4号機を搭載したH2Aロケットの打ち上げが成功しました。これで過去に打ち上げられた3機と合わせて4機体制となりますが、この衛星みちびきは地上の位置を計測する為の測位衛星の役割を持っています。

そして報道などをみますと来年2018年4月から、この「みちびき」を使用した測位システムは運用開始されるそうで・・・

GPS+みちびき」の測位システムでは実用誤差が1m級になる様子で、ほぼビーコン方式のディファレンシャルGPSと同等の精度となります。

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(イラスト:「みちびき」の周回軌道)

 

この「みちびき」はGPSと互換性があり、4機体制となると常に3機は日本で受信できるそうなので従来のGPS衛星を6機程度受信できる状態であれば・・・

(みちびき×3機)+(GPS×6機)となり合計で8機以上での測位電波が受信が可能となるので安定して測位の精度が上がるそうです。

 

また今後2023年までに「みちびき」は追加されて合計7機体制となる様で、そうなると従来のGPS衛星は無しで「みちびき」のみでの運用ができるそうです。

これらのシステムは将来的に自動車の自動運転支援や無人機器(ドローンなど)の遠隔操作を実現する為に測位の最小誤差6cmを目指しているそう!!

すごいですね!!!

12/1追記:準天頂衛星システムQuasi-Zenith Satellite System、QZSS)について

このシステムを正常に利用(運用)するには対応したアンテナや機器のスペックが必要になる様です。現行でQZSS対応と謳っている製品でもバージョンアップや機器オプションの追加などが必要になる場合もある様で詳細は各メーカー、モデルによっても異なり現時点では確かな事は言えません。

この辺は追ってメーカーサイドより情報も出てくると思いますので改めてご紹介したいと思っております。

 

 

よって、上記しました

1.SBAS(Satellite-Based Augmentation System)静止衛星型補強航法の運用

2.準天頂衛星システムの2018年4月からの運用開始

などの背景もあり海上保安庁によるビーコン方式のディファレンシャルGPS運用は役目を終え廃止になる様です。

 

この様な状況から今後の船舶業界での機器的な流れとしては高価なビーコン方式DGPSアンテナ仕様のモデルを購入しなくてもSBAS対応のGPSアンテナが本体内蔵または付属されたモデルであれば、とりあえずは十分な自船位置の測位が可能という事になっていくと思います。

また準天頂衛星システムQuasi-Zenith Satellite System、QZSS)対応のアンテナや製品も徐々に出てくると思われ・・・

恐らく来季以降メーカーにもよりますが、この様な状況からビーコン方式DGPS仕様のモデルは徐々にフェードアウトされていくと思われます。

結果として、これからのニューモデルを含めて各社がどの様なモデル展開にしていくのかが今からの楽しみでもあります。

 

以上、最後まで読んで頂きありがとうございました。

(※最初にも書きましたが、分かりやすくするつもりで内容はざっくりと書いています。より細かい情報が必要な方はグーグルさんなどで検索して調べて下さいね! 私の知識では上記で一杯一杯です!)